vol.002 ヘルパー(介護職員)という人種
3K(キツい、汚い、給料安い)職場。
夜勤、シフト勤務。
肉体労働。
要介護者への陰湿な虐待や事件の報道。
介護の仕事と聞くとこんなイメージが先に来ないだろうか。
そして、素晴らしい仕事だが自分はやりたくない、と。
その上、国は介護を単純労働として扱っている。
もう出るわ出るわマイナスイメージのオンパレード。
もちろん実際に介護の現場で従事してみると、
とても面白い部分がある。
一言で言うなら、人と人の深い関わりができるってことになるだろう。
介護される高齢者を、要介護者とか世話をしてあげるべき人という見方ではとても気づかない部分ではあるのだが、多くの要介護者は言うまでもなく人生の大先輩である。
それも戦前、戦後、高度経済成長、オイルショック、バブルを現役として生き抜いて、子供や孫の世話をしてきて、何人もの友人や親族を亡くしてきた人も多い。
そんな人の体型はノンフィクションドラマの連続である。
そんな今の日本を作り上げてきた人たちがたまたま今、車椅子に乗り、寝たきりになり、記憶や配偶者の顔も忘れたりしているだけなのだ。
そんなその人ごとのドラマを介助の合間に聞くのはとても楽しかった。
私が一番記憶に残っている事例はこんな感じだ。
ガンコ一徹の爺さんの世話に家族は手を焼いて、押し付けるように私が勤務していた有料老人ホームにあずけた。
入居してからも家族はあまり面会に来ない。たまにケアマネとの面談などで来ても基本的には本人には会わずに帰る。
案の定、その爺さんはいつもダンマリ、たまに口を開けば文句や罵声ばかり。必然的に周りの入居者や介護職員も距離を置いてしまう。
そこで私は思った。
この怒りっぽい爺さんはなんで怒りっぽいんだろう。
そこでその方には特に意識して色々話を聞いてみた。
ちなみに、よくヘルパーが要介護者に対し「今日はご飯食べましたか?」とか「(施設の入居者に対して)今日は寒いですね」など心の底からつまらない会話をしている事をよく見かけるのだが、そんな不毛な話に何の楽しさがあるだろうか。
仕事だから、無言では気まずいから、とりあえず会話しよう。そんな所だろう。
人間ってのは何歳になっても自分の話を聞いてもらいたいものである。
私が質問を良くしたのは
どんなお仕事なさっているんですか?
趣味はなんですか?
ゴルフのスコアはどれくらいなんですか?
というと、なんでリタイアして施設に入っている人にそんな訳の分からない質問を?と思われるかもしれないが、その爺さんは今までの話から最近の記憶はないどころか、どうやら記憶が50代くらいに退化していたようだ。
某大手企業の部長をされていて、週末はゴルフ三昧でスコアは100は余裕で切っていた。
そういう時代を生きているのだ。
そんな社会的地位があった方に「今朝はご飯食べましたか?」「今日は節分ですね。昼にまめまな豆まきイベントやりますよ」はあまりにズレ過ぎている。
そりゃその爺さんでなくても怒るだろう。
数分後にはその会話の記憶は消えているわけであるが、その人との会話のポイントは分かる。
私は上司が近くにいないときはその爺さんを部長と呼んでいた。そしてその部長は私のことが一番のお気に入りの部下だったように思う。
まぁ、私もその爺さんに散々罵られたのだが。
接客、営業、販売など人と人とのより深いコミュニケーションが生きがいとなる仕事はあるだろうが、介護の仕事もあながちそれから遠くない。
介護というイメージが先行してしまうが、介護職員および高齢者介護に関わる事業者ならその事を肝に銘じて欲しい。
少なくとも私は老人を老人扱い、子供扱いするヘルパーには何も頼みたくない。
人として扱ってくれる人に自分や親を任せたいものだ。
実際にはそうは言ってられない大変な認知症やADLの方もいるだろう。
しかし、最終的に行き着くのは、要介護者を人として扱えるか否か、介護職員としての適性はそこにあるだろう。